Xで「TP-Linkのルーターが乗っ取られる」という投稿を見かけて、心配になった人もいると思います。TP-Linkは手頃で家電量販店にもよく並んでいるので、使っている家庭は多いはずです。
先に結論を書きます。ルーターの安全性は、メーカー名よりも「サポートが続いているか」「更新が自動で届くか」で決まります。実際、乗っ取られて悪用されているのは、メーカーを問わず古いまま放置された機器です。
この記事では、現役のネットワークエンジニア(以下、NE)の立場から、話題になっている件の中身を整理したうえで、一般の家庭がルーターを選ぶときに見るべき5つのポイントと、主要6社の比較、迷ったときのおすすめ機種を紹介します。
Xで話題の「TP-Link乗っ取り」は何の話か
2026年10月に話題になったのは、主に次の2つです。どちらも「TP-Linkが意図的に何かを仕込んだ」という話ではありません。
米国の州がTP-Linkを提訴した
2026年10月6日、米国のフロリダ、アイオワ、モンタナ、ネブラスカの4州が、TP-Linkの米国法人を提訴しました。2月のテキサス州と合わせて5州になります。訴えの中身は、製品の安全性について消費者に誤解を与えたというものです。
訴状では、TP-Link製ルーターが中国系の攻撃グループに悪用されたことや、通信事業者向けの「Aginet」シリーズ65機種で見つかった脆弱性が根拠に挙げられています。Aginetは通信事業者が利用者に配る機器のシリーズで、家電量販店で買う一般的なArcherやDecoとは別の製品群です。
なお、TP-Linkがバックドアを意図的に仕込んだと公的機関が認定した事実は、2026年10月時点で確認できません。訴訟の主張も、今の段階では「訴えた側の言い分」です。
WPSplinter:Broadcom製チップの古い不具合
もう1つは、10月16日にセキュリティ研究者が公表した「WPSplinter」です。これはTP-Link固有の問題ではなく、Broadcom製のWi-Fiチップに入っている古いWPS処理の不具合です。Wi-Fiの電波が届く範囲にいる攻撃者が、パスワードを知らなくても機器を乗っ取れる可能性があります。
対象にはCisco、Netgear、Nokiaなど複数のメーカーが含まれ、TP-Linkでは Archer C3150、C5400、VR600、VR900、VR2800、TD-VG5612、VR1600 が挙げられています。多くは海外の通信事業者向けの機種や、かなり前のモデルです。攻撃には電波の届く距離まで近づく必要があるので、インターネット越しに一斉に狙われる種類の問題ではありません。
共通点は「古い機器」と「放置」
2つの話に共通しているのは、更新されないまま使われ続けている機器が狙われているという点です。2024年にMicrosoftが報告した、中国系の攻撃者が使うネットワーク(CovertNetwork-1658)も、大半がTP-Link製の小規模オフィス・家庭向けルーターでした。TP-Link自身は、悪用された機器はサポートが終了していたと説明しています。

乗っ取られたルーターは、持ち主が気づかないまま、他人への攻撃やパスワード総当たりの中継に使われます。家庭の被害そのものより、知らないうちに攻撃の「加害側」に組み込まれるのがこの問題の本質です。
「国産なら安全」ではない
ここで「じゃあ国産メーカーにすれば安心」と考えたくなりますが、そう単純ではありません。国内メーカーでも、同じような問題は起きています。
- バッファロー:2024年に一部の旧機種でボット感染が見つかり、約50台からマルウェアと見られる通信が確認されました。2026年3月には46製品で脆弱性が公表され、そのうち7製品はサポート終了のため修正版が出ていません。
- NEC(Aterm):2026年4月に複数の脆弱性が公表されましたが、修正版が出たのは12機種だけで、サポートが終わった機種は買い替えを案内されています。
- エレコム:2026年2月にルーターなど15製品で脆弱性が公表され、2製品は使用停止と買い替えが推奨されました。
台湾のASUSでも、2025年に約9,000台のルーターが侵害されたことが報告されています。つまり、どこの国のメーカーかより、その機種に今も修正が届くかのほうが重要です。どのメーカーも、サポートが終わった機種の穴は塞いでくれません。
国内メーカーの事例は、こちらの記事でも詳しく書いています。
バッファロー製Wi-Fiルーター46機種に重大な脆弱性|ネットワークエンジニアが解説する本当のリスクと今すぐやること
安全なWi-Fiルーターを選ぶ5つのポイント
では何を見て選べばいいのか。NEとして一般の家庭にすすめたいのは、次の5つです。店頭のパッケージや商品ページで確認できます。

1. ファームウェアの自動更新に対応している
いちばん大事なのがこれです。ルーターの中のソフト(ファームウェア)に穴が見つかっても、修正版が自動で入れば、持ち主が何もしなくても塞がります。多くの家庭はルーターの管理画面を一度も開かないので、自動更新がないと修正は永遠に届きません。初期設定で自動更新がオンになっている機種なら、なお安心です。
2. サポート期間を公表している
メーカーがいつまで修正版を出すのかは、機種選びで見落とされがちな点です。生産や販売が終わってから何年サポートするかを数字で公表しているメーカーなら、買い替えの時期を自分で判断できます。サポート終了品のリストを公開しているかどうかも確認しておきましょう。
3. JC-STAR ★1 を取得している
JC-STARは、経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が2025年に始めた、IoT機器のセキュリティラベル制度です。★1を取得した機種は、共通の初期パスワードを使わない、ソフトを安全に更新できる、サポート期間を公開する、といった最低限の対策を満たしていることになります。
ただし★1はメーカー自身がチェックして申請する「自己宣言」で、完全な安全を保証するものではありません。それでも、何を基準に選べばいいかわからない人にとっては、いちばん手軽な目印です。
4. 初期パスワードが1台ごとに違う
昔のルーターは、管理画面の初期パスワードが全機種共通だったものが少なくありません。共通パスワードは攻撃者に知られているので、変えずに使うと簡単に入られます。最近の機種は、本体のラベルに1台ずつ違うパスワードが書かれていることが多いので、購入時に確認しておくと安心です。
5. 日本語のサポートと脆弱性情報がある
問題が見つかったとき、自分の機種が対象か、何をすればいいかを日本語で確認できるかどうかも大切です。国内メーカーは、JPCERT/CCとIPAが運営する脆弱性情報サイト「JVN」を通じて情報を出すことが多く、追いかけやすい傾向があります。
主要6社を比べるとこうなる
家庭用Wi-Fiルーターでよく見かける6社を、上の基準で並べました。まず、ファームウェアの更新が続く期間です。

国内4社はサポート年数を数字で公表していますが、TP-LinkとASUSには定量的な基準がありません。どちらも終了後しばらくはセキュリティ修正を続けるとしていますが、「いつまで」を事前に知ることはできません。また、NECは2025年12月からサポート期間を販売終了後約5年から約3年に短縮しています。
自動更新とJC-STARの取得状況も含めると、次のようになります。
| メーカー | サポート期間 | 保証 | 自動更新 | JC-STAR★1(家庭用ルーター) |
|---|---|---|---|---|
| バッファロー | 生産終了から5年 | 1年 | あり(初期値オン) | 取得機種あり |
| NEC(Aterm) | 販売終了から約3年 | 1年 | あり | 取得機種あり |
| エレコム | 生産終了から最長5年 | 1年 | あり(初期値オン) | 取得機種あり |
| アイ・オー・データ | 生産・販売終了から5年 | 3年 | あり | 確認できず |
| TP-Link | 定量的な基準なし | 3年 | クラウド対応機であり | 取得に向けて協議中 |
| ASUS | 定量的な基準なし | 2年 | あり(管理画面でオンにする) | 確認できず |
JC-STARの取得状況は、IPAの適合製品リスト(2026年10月15日版)と各社の発表をもとにしています。メーカーとして「取得機種あり」でも、全機種が取得しているわけではありません。購入前に、その機種の商品ページでラベルの有無を確認してください。
TP-Linkについては、日本法人がJC-STARの取得に向けて関係機関と協議中だと明らかにしています。英国やシンガポールの同様の制度ではすでに認証を得ているので、日本でも今後取得機種が出てくる可能性はあります。
迷ったらこの3台
ここまでの基準をすべて満たす機種から、用途別に3台選びました。いずれもJC-STAR★1を取得していて、ファームウェアの自動更新に対応しています。
- バッファロー WSR3600BE4P:Wi-Fi 7の入門機。1万円台で買えて、一般的な家庭ならこれで十分です。JC-STARの適合には最新ファームウェア(Ver.6.04以降)への更新が必要です。
- NEC Aterm 7200D8BE:Wi-Fi 7のミドルクラス。電波の安定性を重視するならこちら。サポート期間は販売終了から約3年なので、長く使う前提なら買う時期に注意してください。
- バッファロー WSR-3000AX4L:Wi-Fi 6のエントリー機。2026年6月発売の新しいモデルで、価格を抑えたい人や一人暮らし向けです。
どれを選ぶにしても、発売から時間が経っていない機種を選ぶのがコツです。サポート期間は生産や販売の終了から数えるので、新しい機種ほど長く修正が届きます。
買ったあとにやる4つのこと
実は、機種選びより効くのは、使い始めてからの設定と買い替えの時期です。

- 自動更新はオンのまま:「通知のみ」や「更新しない」に変えないでください。自動更新が止まる不具合が起きることもあるので、年に1回は管理画面で最新か確認すると安心です。
- 管理画面を外に公開しない:インターネット側から設定できる「リモート管理」は、使わないならオフにしておきます。
- 使わないならWPSはオフ:ボタンを押してつなぐ機能を使っていないなら、無効にしておくと狙われる入口が1つ減ります。
- サポート終了前に買い替える:メーカーのサポート終了品リストに自分の機種が載ったら、壊れていなくても交換を考えましょう。
TP-Linkを使っている人はどうすればいい?
今TP-Linkのルーターを使っている人が、慌てて捨てる必要はありません。まず次の2つを確認してください。
- 型番を確認して、サポートが続いているか調べる:TP-Linkの公式サイトで、自分の型番のファームウェアが最近も更新されているか、EOL(サポート終了)のリストに載っていないかを確認します。
- ファームウェアを最新にする:TetherアプリやWebの管理画面から更新できます。自動更新に対応している機種なら、オンになっているかも見ておきましょう。
サポートが続いていて、ファームウェアが最新なら、使い続けて問題ありません。逆に、何年も前のモデルで更新が止まっているなら、TP-Linkかどうかに関係なく買い替えどきです。
中国製ルーターをめぐる話は、こちらの記事でも整理しています。
まとめ
- Xで話題の「TP-Link乗っ取り」は、米国の州による提訴と、Broadcom製チップの古い不具合(WPSplinter)の話。TP-Linkが意図的に仕込んだという話ではない
- 乗っ取られているのは、メーカーを問わず更新されないまま放置された古い機器
- 国産メーカーでも、サポートが終わった機種は修正されない
- 選ぶときは自動更新・サポート期間・JC-STAR★1・初期パスワード・日本語の情報の5つを確認する
- 買ったあとは自動更新をオンのまま使い、サポート終了前に買い替える
ルーターは一度設置すると何年も触らない機器です。だからこそ、放っておいても修正が届く機種を選び、サポートが切れたら替える。これだけで、乗っ取りのリスクはぐっと下げられます。