トランプ大統領が、AIを今後「SI」と呼ぶと言い出したらしい。
ニュースの見出しを見た瞬間、胸のあたりがざわっとした。SI。エスアイ。この2文字を見て落ち着いていられるネットワークエンジニア(以下、NE)は、たぶんそう多くない。
どうせ定着しないのはわかっている。わかっているけど、心が落ち着かない。今日はそんな話です。
何が起きたのか
2026年9月22日(現地時間)、トランプ大統領は国連総会の一般討論演説で、人工知能(Artificial Intelligence)を今後「Super Intelligence(SI)」と呼ぶと表明しました。理由は、「人工(Artificial)」という言葉がフェイクっぽく聞こえるから、とのこと。
ちなみに演説の数日前、本人はSNSで「Superior Intelligence」「Extreme Intelligence」「Supreme Intelligence」の3案を出して投票を呼びかけていました。ところが本番で発表されたのは「Super」。3案のどれでもない。
アンケートを取ったのに結果を使わない。要件定義で合意した内容が、リリース直前にひっくり返る。……なんだか見覚えのある光景です。
「SI」と聞いて思い出すこと
僕らの業界で「SI」といえば、もちろんシステムインテグレーション。そしてそれを生業にするのがSIerです。
僕はNEとして10年以上、企業や官公庁のSI案件に関わってきました。「SI」という2文字には、その間の記憶がまとめて詰まっています。
たとえば、客先では自社ではなく常駐先の社名を名乗るのが当たり前だったこと。
名刺交換の場面になると、なぜか「すみません、名刺を切らしておりまして」がお決まりのセリフになっていたこと。切らしているというか、そもそも補充される気配がない。
そして深夜の切り替え作業。静まり返ったサーバールーム、手順書の行を指でなぞりながら打つコマンド、切り戻し判断の時刻が近づくたびに増える心拍数。無事に疎通が取れたときの安堵と、始発を待つ駅のホームの寒さ。
「SI」と聞くと、それが全部よみがえるのです。そりゃ落ち着かない。
略語がかぶるのはIT業界の日常
とはいえ、略語が別の意味とかぶるのは、IT業界ではよくある話です。
ネットワークの世界でも、同じアルファベットが文脈によってまったく別のものを指すことは珍しくありません。CCNAを勉強している方なら、略語の多さに一度は頭を抱えたことがあるはず。
CCNAの学習をこれから始める方は、全体の流れをCCNAロードマップにまとめているので、あわせてどうぞ。
結局、略語は「どの文脈で使われているか」で読むしかありません。今回の「SI」も、国際ニュースの文脈ならSuper Intelligence、現場の朝会で出てきたらSystem Integration。そう割り切れば済む話……なのですが、頭で割り切れても心がついてこないのが困ったところです。
たぶん定着しない、と思う理由
冷静に考えると、「SI」という呼び方が世界に定着する可能性は低いと思っています。
まず、「AI」という言葉は何十年も使われてきた定着語です。論文も、法律も、製品名も、AIだらけ。今さら全部を書き換えるのは現実的ではありません。
次に、AI研究の世界では「スーパーインテリジェンス(超知能)」はすでに別の意味を持っています。人間の知能を大きく上回る、まだ実現していない仮説上のAIを指す言葉です。今のAIをそう呼ぶと、専門家ほど違和感を覚えるでしょう。
そして今回の方針が対象としているのは、あくまで米国政府の文書です。日本の企業や個人に強制力はありません。提案書や契約書の「AI」を「SI」に置換する必要は、今のところまったくないので安心してください。うっかり一括置換したら、別の意味で大事故になります。
それでも、僕らの「SI」は続く
AIが「SI」を名乗る日が来るとしたら、それはSIerの仕事がAIに置き換えられる日なのか。そんなことを一瞬だけ考えました。
でも、たぶん数年後には誰もAIを「SI」とは呼んでいない。そして僕らの「SI」は、きっと明日も続いている。
とりあえず、名刺の補充を申請するところから始めようと思います。