WWDC2026の「Siri AI」は、Google Geminiと組んだ新しいSiriだ。世間の関心は「賢くなったSiriそのもの」に集まっている。
でもネットワークエンジニア(以下、NE)として気になるのは別のところ。「あなたの声は、どこまで運ばれて処理されるのか?」だ。
この記事では、Siri AIの「3層ルーティング」を”データの流れ”で読み解く。後半では、EUで使えない理由(DMA問題)も同じ視点でつなげる。
結論:問いかけは「3層」に振り分けられる
Siri AIは、すべてを巨大クラウドに丸投げしない。タスクの重さで処理先を3つに振り分ける。

- 第1層:オンデバイス … 端末の中で完結
- 第2層:Private Cloud Compute(PCC) … Appleのクラウド
- 第3層:Google Cloud … 一番重いタスクだけ
上の層ほど、データが手元から遠くへ運ばれる。各層で「誰が中身を見られるか」が変わるのがポイントだ。
第1層:オンデバイス(データは端末から出ない)
メッセージや写真、画面の内容を使う処理は、端末の中だけで終わる。ここで動くのが、第3世代Apple Foundation Models(AFM)のAFM CoreとAFM Core Advancedだ。
NE目線ではいちばん安全な層。データが外に出ないので、守る範囲(信頼境界)が一番狭い。
第2層:Private Cloud Compute(Appleの”残さない”クラウド)
端末で処理しきれない時だけ、AppleのデータセンターにあるApple Siliconサーバー「PCC」へ送る。動くのはAFM Cloudだ。
PCCの肝は3つ。
- 残さない:処理が終わればデータは即破棄。ログにも残さない
- 覗けない:Appleの運用者でも、処理中のデータは見られない設計
- 確かめられる:仕組みが公開され、外部の研究者が検証できる
要するに「Appleに送るけど、Apple自身も中身を見られない」。クラウドなのに、端末並みに守りを固めている。
第3層:Google Cloud(ここで初めて”本物のGemini”が動く)
ここが最大の誤解ポイント。
「Siri AI=Gemini」と思われがちだが、違う。第1層・第2層のApple製モデル(AFM)に、Geminiは入っていない。GeminiはあくまでAppleがモデルを”学習させる先生”として使っただけだ。
本物のGeminiが動くのは、一番重い第3層だけ。広い知識や高度な推論が必要なときに、Google Cloud上のNvidia B200で動く約1.2兆パラメータのGeminiに渡される。
「競合Googleに、声が丸見えでは?」
NEなら当然そう疑う。Appleの答えは「ハードで物理的に隠す」だ。
B200は機密計算に対応していて、送られたデータはGPUの中でも暗号化されたまま処理される。Google側から見えるのは”暗号化された塊”だけで、中身(平文)は読めない。
NE的に言えば、インフラ提供者すら信用しないゼロトラストを、ハードウェアで実現する試みだ。
※第3層の細かい構成や配置は、Appleが公表していない部分も多い。本記事は公表済みの設計と報道をもとにしている。
なぜEUではSiri AIが使えないのか
「データと制御を誰にどこまで渡すか」という話は、そのままEUの提供見送り問題につながる。
Appleは、EUではiOS 27とiPadOS 27だけSiri AIを提供しないと発表した(macOS・visionOS・watchOSはEUでも使える)。理由はEUのデジタル市場法(DMA)だ。日本では問題なく使えるが、「なぜ規制とぶつかるのか」はSiri AIの設計を理解するうえで面白い。
DMAは、Apple(ゲートキーパー)に「競合アプリにも自社並みの相互運用性を開放しろ」と求める。Appleの言い分を要約すると、こうだ。
(要約)DMAに従うと、他社のアシスタントにも「ユーザーの個人データへの直接アクセス」や「他アプリを操作する権限」を渡すことになり、危険すぎる。
Appleは仲介の仕組み「Trusted System Agent」や段階導入案を出したが、欧州委員会は却下。Federighi氏は「EUユーザーにiPhone/iPadでSiri AIを届けられず残念」と表明した。
NE目線では、「OSが個人データの強い仲介役になる設計」と「オープンな相互運用を求める規制」の正面衝突だ。
企業の注意点:iOS 27 Extensionsと情報漏えい
もう1つ、セキュリティ担当が見逃せないのがiOS 27 Extensions。OSの既定アシスタントを、純正Siriから外部AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)に変えられる。

便利だが、リスクもある。外部AIに変えると、Siriが持っていた「画面の機密文書やメールを読む力」が、そのまま外部AIへ渡りうる。純正Siriなら「端末内/PCCで残さない」保証があるが、外部AIに切り替えた瞬間に外れる。
企業は全社展開の前に、MDMポリシーの見直しが必要だ。たとえば「どの外部AI拡張を許可するか」「業務中の画面認識をブロックするか」を決めておきたい。
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まとめ
- Siri AIは処理を3層(端末 → PCC → Google Cloud)に振り分ける
- 「Siri=Gemini」は誤解。Geminiが直接動くのは一番重い第3層だけ
- 第3層はGoogleのインフラを使うが、B200の機密計算で中身を見せないゼロトラスト設計
- EUはiOS/iPadOSのみ見送り。OSの仲介権限とDMAの相互運用要求がぶつかった
- iOS 27 Extensionsで外部AIを既定にできる反面、企業はMDM見直し(DLP対策)が要る
Siri AIの進化は、結局「データを誰に、どこまで預けるか」の設計だ。NEには、AIを”通信とトラストの問題”として読む良い教材になる。
Siri以外のAIアシスタントを常用したい場合は、アクションボタンへの割り当てが手軽です。詳しくはiPhoneのアクションボタンでGemini Liveを一発起動する設定3ステップをご覧ください。