ネットワーク自動化の解説記事には、ほぼ必ず同じ一文が出てくる。「これまで夜間に数時間かけていた設定投入が、パイプラインの実行で数秒で終わる」。この部分については、そのとおりだろうと思う。
ただ、それで夜間作業がなくなるかというと、そうはならないと考えている。理由は自動化の性能とは別のところにあるからだ。
先に立場を書いておくと、筆者はいま夜間作業のある案件からは離れている。この記事は、かつて既存環境の切り替えを担当していたときの記憶と、現在公開されている自動化の資料を突き合わせて書いたものだ。現行の自動化ツールを実務で回した体験談ではない。
そもそも、なぜ夜にやるのか
ネットワークエンジニア(以下、NE)が夜間に作業する理由を、「業務時間中は止められないから」の一言で説明することが多い。間違ってはいないが、これだと自動化で作業が数分になれば昼にできるという結論が出てくる。実際にはそうならない。
既存環境に手を入れる作業を夜にやる本当の理由は、切ってみないと分からない部分が残るからだ。
設計をどれだけ詰めても、実際に切り替えた瞬間に何が落ちるかは完全には読めない。誰も把握していなかった機器が古いVLANにぶら下がっていた、という類の話は珍しくない。構成図に載っていない通信が存在していて、それが止まって初めて存在が判明する。
この「読み切れていない部分」があるからこそ、業務が動いていない時間帯を選ぶ。何かが落ちても影響が出ず、元に戻す時間も確保できる時間帯。それが夜だというだけの話だ。
夜にやる作業は、移行だけではない
夜間作業というと大規模な移行案件を思い浮かべるかもしれないが、実際にはもっと日常的な作業が該当する。
- 機器のリプレース、老朽化した筐体の入れ替え
- ファームウェアやIOSのアップデート
- 回線の切り替え、キャリア変更
- 冗長構成のフェイルオーバー試験
- ルーティングやVLAN構成の変更
- ファイアウォールのポリシー変更で、通信断の範囲が読み切れないもの
- 障害の恒久対策の適用
これらに共通しているのは、どれも既存の通信に影響が出る可能性がある点だ。逆に言えば、新規構築で既存に触らない作業は昼にやっている。夜かどうかを決めているのは作業の規模ではなく、既存環境に触るかどうかである。
そしてこの種の作業では、設定を流す時間そのものは元々そこまで長くない。長いのはその前後だ。
前半:事前確認
作業前に、現在の状態を記録しておく。ルーティングテーブル、隣接関係、インターフェースの状態、セッション数。これは作業後の比較対象であり、切り戻すかどうかの判断材料になる。
ここを省くと、作業後に出た事象が「今回の変更のせいなのか、元からそうだったのか」が判別できなくなる。急いでいるときほど省きたくなるが、省いた回の後始末が一番長引く。
後半:疎通確認と業務確認
切り替えた後、まず自分たちで疎通を確認する。ここまでは機械的に進む。
問題はその次で、顧客側の担当者に実際に業務アプリケーションを触ってもらう工程がある。基幹システムにログインできるか、複合機から出力できるか、特定の拠点間のファイル共有が見えるか。この確認は相手のペースで進むので、こちらの都合では短縮できない。
最後:切り戻し判断のための時間
そして、問題が出た場合に元へ戻すための時間を確保しておく必要がある。この時間は、使わなかった場合でも作業ウィンドウから引けない。保険なので、確保してあること自体に意味がある。
自動化が短縮するのは、どの部分か
ここまでの工程を並べたうえで、自動化が効くと言われている範囲を重ねてみる。

自動化によって短縮されるとされているのは、主に設定投入の工程だ。数十台に同じ設定を流す作業がスクリプト1回になる、というのは資格試験の教材でも繰り返し出てくる例で、これ自体は疑っていない。転記ミスが減ることも、切り戻し用のconfigを自動で取得しておけることも、実際の効果があるだろう。
ただ、図にしてみると分かるとおり、縮む部分と、夜にやる理由になっている部分が重なっていない。読み切れていないから夜にやっているのであって、読み切れている部分をいくら速くしても、夜にやる理由のほうは消えない。
それでも夜が空かないと思う3つの理由
1. 顧客の業務時間は動かない
これは技術の問題ですらない。官公庁や金融、製造ラインを抱える顧客では、止めていい時間帯が制度として決まっている。
作業が10分で済むと説明したところで、返ってくるのは「では23時から10分でお願いします」であって、「では昼にやりましょう」ではない。時間が短くなっても、時間帯は動かない。
2. 立ち会いは自動化されない
パイプラインが自動で走るとしても、走っている間に誰もいないという運用は、現実にはまず通らない。何かあったときに即座に判断できる人間が待機していることが、契約上あるいは慣行上求められる。
むしろ自動化されているほうが、待機の必要性は説明しにくくなる。「自動なんだから見ていなくてもいいのでは」と言われたとき、なぜ人がいるのかを説明する言葉を、この業界はまだ用意できていないように見える。
3. 1回が楽になると、回数が増える
これが一番大きいのではないかと考えている。
作業のコストが下がると、以前なら「次の更改までまとめて我慢しよう」と見送っていた変更が通るようになる。1回あたりの負荷は下がっても、実施回数が増えれば、夜に拘束される日数は減らない。場合によっては増える。
これは自動化に限った話ではなく、作業が効率化されたときに一般的に起きることだ。空いた時間が休息に回るとは限らない。
変わるのは「作業」ではなく「待機」だと思う
ここからは持論になる。
自動化が夜間作業にもたらす変化を一言でまとめるなら、手を動かす時間が減り、何も起きないことを確認する時間が増えるということではないかと考えている。
手作業でやっていた頃の深夜作業には、少なくとも作業感があった。手順書の何行目まで終わったかが進捗であり、キーボードを打っている間は自分が前に進んでいる実感があった。眠くても、手が動いている限りは意識が保たれる。
投入が数分で終わるようになると、作業時間の大半が待つことに変わる。実行して、ログを見て、あとは顧客の確認を待つ。
これを「楽になった」と表現していいのか、正直なところ判断がつかない。緊張の質が変わるだけではないかと思っている。手を動かしているときの緊張は集中と結びついているが、待機の緊張はそうではない。何も起きないことを願いながら、何かが起きたら即座に反応しなければならない状態を、数時間維持する。
そして作業報告書に書けるのは「作業時間10分」であり、その前後の数時間は書かれない。自動化が進むほど、この記録に残らない時間の比率が上がっていく。
待機時間のほうが、体には効く
NEの体調という観点で見ると、この変化はあまり良い方向に働かない。
深夜1回は、その日だけの問題では終わらない
夜間作業の影響は、当日の睡眠不足で完結しない。作業明けに寝ても体内時計がずれた状態が数日続き、週明けの通常勤務で寝つけない、日中に眠いという形で表面化する。
月に1回の作業でも、実質的には毎月数日分のコンディションを削っていることになる。睡眠を含めた体調面はまとめ記事でも触れたが、この「戻すのにかかる時間」まで計算に入れている人は少ない。
動かない時間は、姿勢と目に来る
手を動かしていない待機時間は、姿勢が固定されやすい。ログ画面や監視ダッシュボードを注視したまま、ほとんど動かずに数時間過ごすことになる。作業しているときのほうが、まだ体は動いている。
結果として出てくるのが眼精疲労で、これは「作業がきつかったから」ではなく「動かなかったから」起きる種類の不調だ。自動化によって、むしろ悪化する可能性がある。
まとめ
自動化は、夜間作業のうち手を動かす部分を短くする。ここは疑っていない。
ただ、既存環境に触る作業を夜にやる理由は、読み切れない部分が残ることにある。そこは自動化の射程の外にあり、顧客の業務時間も立ち会いの要請も変わらない。むしろ1回が楽になったぶん、変更の回数は増えていくのではないかと思う。
この予想が外れて、数年後に夜間作業が本当に減っていたなら、そのときは追記する。