X(旧Twitter)を見ていると、「フリーランスエンジニアの悪質な話」が定期的に流れてきます。経歴を盛って現場に入ってくる人、稼働をサボって虚偽報告する人、初日で音信不通になる人。特にSES周りの話は、もはや定番ネタと言っていいくらいです。
実は私も最近、現場で「これはひどい」というフリーランスのエンジニアに遭遇しました。
私自身、10年以上SIの現場でネットワークエンジニア(以下、NE)をやってきて、現在はフリーランスとして働いています。フリーランスという働き方自体を否定する気はまったくありません。ただ、「誰にでも勧められる働き方ではない」のも事実です。
この記事では、現役フリーランスNEの視点から、
- 実際に現場で見た「悪質・残念なエンジニア」の実例
- 業界で何が起きているか(SES経歴詐称の最高裁判決など)
- スキルアップ目的なら会社員が圧倒的に有利な理由
- フリーランスNEに向いている人・向いていない人
を、本音ベースで整理します。「フリーランスになろうか迷っている」という方の判断材料になれば幸いです。
フリーランスのネットワークエンジニアは今、稼げるのか
結論から言うと、スキルがある人にとっては、単価水準は悪くない市場です。クラウドやセキュリティ領域を扱える人材の需要は高止まりしていて、レガシーシステムの更改案件も豊富にあります。ネットワークはインフラの土台なので、案件が急に消えるということも考えにくい領域です。
ただし、この「稼げる」には重要な前提があります。
- 実務経験がすでに数年以上あること
- 一人で設計・構築・トラブル対応まで完結できること
- 契約やお金の管理を自分でできること
逆に言うと、この前提を満たさない人がフリーランス市場に入ってくると、需給のミスマッチが起き、トラブルの温床になります。今Xで炎上している話の多くは、ここが原因です。
多重下請け構造は健在
もう一つ知っておくべき前提が、日本のIT業界の多重下請け構造です。要件を決める人と手を動かす人の間に何社も入り、末端のエンジニアは「仕様が決まっていないのに納期だけ決まっている」案件に投入されます。
会社員なら会社がある程度守ってくれますが、フリーランスはこの構造の一番弱い立場に、個人として放り込まれることになります。ここは正直、覚悟が必要なポイントです。
実際にいた「悪質・残念なフリーランスエンジニア」
ここからは、私が実際に現場で見聞きした話と、業界で問題になっている実例を紹介します。
※実在の個人・企業が特定されないよう、詳細は一部変更・抽象化しています。
私が現場で遭遇したケース
経歴書は華々しく、面談でのコミュニケーションも申し分ない。発注側が「ぜひお願いしたい」となるのも納得の人物でした。
ところが、稼働が始まると様子が変わります。日中は何らかの理由で休みがちなのに、「夜中に作業しました」という報告だけは上がってくる。そして肝心の成果物が出てこない。時間契約にもかかわらず、どうやら複数の案件を掛け持ちして、短期間で一気に稼ぎ切るスタイルだったようです。
現場への影響は明確でした。その人が担当するはずだったタスクは、他のエンジニアへのしわ寄せになります。結局その人は短期で現場を抜けましたが、本人は稼ぐだけ稼いで去っていった。真面目に頑張っている人たちがアホらしくなる——これが一番の実害だったと思います。
そして、いろんな現場でこの手の話を聞いていると、共通点が見えてきます。それは「華々しい経歴」と「高いコミュニケーション力」です。面談を突破する能力と、現場で成果を出す能力は、まったくの別物なのです。発注側は面談と経歴書でしか判断できないので、この2つに全振りした人が、構造上どうしてもすり抜けてきてしまいます。

逆に言えば、「コミュニケーション」は真面目な人の武器になる
ここで一つ、視点を反転させたい話があります。
面談と経歴で採否が決まるということは、真面目に働きたい人こそ、コミュニケーションを意識すれば採用されやすくなるということです。これは就職でもSESでもフリーランスでも同じです。
技術力で誠実に価値を出せる人が、面談の受け答えが苦手なせいで、口だけの人に案件を取られる。これほどもったいないことはありません。ずるい人の手口から学ぶべきなのは「盛り方」ではなく、「伝え方が評価を左右する」という事実そのものです。
経歴詐称で入ってきて、すぐバレる
フリーランス案件の多くは「実務経験3年以上」といった条件が付いています。ここで経験年数を盛ったり、持っていない資格を「保有」と書いたりして現場に入ってくる人が、残念ながら一定数います。
資格についても、実はCCIEのような大きなものでない限り、合格証明の提出を求められないことがほとんどです。そのため、細かい資格を経歴書に並べて見栄えを良くしている人も現実にいます。証明を求められない以上、経歴書に書いたことはすべて現場での実力で試されると考えるべきです。
ただ、NEの現場ではスキル不足は数日で確実にバレます。コンフィグを見ればわかりますし、切り分けの手順を見ればもっとわかります。結果はほぼ決まっていて、契約の即時解除、エージェントからの信用失墜、最悪の場合は損害賠償請求です。
稼働の虚偽報告
リモート案件の自由度を悪用するパターンもあります。業界で実際にあった話として、「体調不良で休みます」と報告しながら、裏で別の仕事をしていたことが発覚し、即日契約解除になった事例が報告されています。
フリーランスは信用が資本です。一度この手の話が広まると、エージェント経由の案件紹介は事実上止まります。会社員の「怒られて終わり」とは重みが違うということは、強調しておきたいポイントです。
企業ぐるみの経歴詐称は「違法」と確定した
個人の問題だけではありません。2026年2月6日、SES企業による経歴詐称の強要をめぐる訴訟で、最高裁が企業側の上告を退け、元エンジニア側の全面勝訴が確定しました。
この事件では、未経験の若手に経歴や年齢の粉飾を指示して客先に送り込み、さらに高額な自社スクールの受講まで義務付けていた実態が問題となり、東京高裁は経営者側に約769万円の賠償を命じています(最高裁で確定)。判決では、経歴詐称の指示が違法な業務命令にあたると明確に認定されました。
長年「業界の暗黙の了解」のように扱われてきた経歴詐称に、司法がはっきりNOを突きつけた形です。「経歴を盛って現場に潜り込む」というやり方は、個人にとっても企業にとっても、もう完全に通用しないと考えるべきです。
スキルアップ目的なら、会社員の方が圧倒的に有利
ここがこの記事で一番伝えたいことです。

「スキルを付けたいからフリーランスになる」という人がいますが、順序が逆です。スキルアップのフェーズにいる人にとって、会社員はフリーランスより圧倒的に有利な環境です。
そもそも大前提として、「スキルアップ目的のフリーランス」は発注側から好まれません。クライアントが単価を払って買っているのは「即戦力」であって、成長の伸びしろではないからです。面談でその姿勢が透けて見えた時点で、採用されにくくなります。「学ばせてもらう」つもりの人にとって、フリーランス市場はそもそも入口から狭いのです。
理由①:研修・資格取得の支援がある
多くのSIerやSES企業には、CCNAをはじめとした資格の受験費用補助、参考書代の補助、合格報奨金といった制度があります。ベンダートレーニングを会社経費で受けられることもあります。
フリーランスになると、これらは全額自腹です。CCNAの受験料だけでも数万円、上位資格やトレーニングまで含めると年間の学習コストはかなりの額になります。しかもその学習時間は、1円も生みません。
理由②:わからないことを聞ける先輩がいる
会社員なら、詰まったときに聞ける先輩や有識者が社内にいます。検証機材を触らせてもらえる環境もあります。これは若手にとって、お金では買えない価値です。
フリーランスは基本的に「即戦力」として呼ばれています。「教えてもらう」ことは契約に含まれていません。むしろ多重下請けの構造上、有識者に直接質問すらできない現場もあります。
理由③:失敗しても守られる
会社員は、失敗してもまず会社が守ってくれます。損害が出ても個人が賠償することは基本的にありません。
フリーランスは、スキル不足や重大なミスが契約解除に直結します。先ほどの実例のとおり、場合によっては損害賠償のリスクも個人で負います。「失敗から学ぶ」ことのコストが、会社員とは桁違いなのです。
だからこそ私は、キャリアの前半は会社員として基礎を固め、一人で完結できるようになってからフリーランスを検討するのが王道だと考えています。
フリーランスのネットワークエンジニアに向いている人・向いていない人
ここまでの内容を、チェックリストとして整理します。

向いている人
- 設計〜構築〜トラブル対応まで一人で完結できる実務経験がある
- 契約書を自分で読み、条件交渉ができる(または学ぶ意思がある)
- 収入の波や案件の空白期間に耐えられる資金的余裕がある
- 孤独に強く、自分で学習・健康管理を回せる
- 「教わる側」ではなく「価値を提供する側」に立てる
向いていない人
- 実務経験が浅く、これからスキルを付けたい(→まず会社員で基礎固め)
- 研修や資格支援など、会社の制度を活用したい
- 誰かに相談しながら仕事を進めたい
- 経歴を盛らないと案件条件を満たせない(→絶対にやってはいけません)
- 契約やお金の話が苦手で、人任せにしたい
一つでも「向いていない人」に強く当てはまるなら、今フリーランスになるのは時期尚早です。それは能力の問題ではなく、フェーズの問題です。
それでもフリーランスになるなら:最低限の防衛知識
最後に、フリーランスとして働くうえで知っておくべき法的な防衛知識を紹介します。私は弁護士ではないので、あくまで一般的な情報として、実際のトラブル時は専門家や公的窓口に相談してください。
フリーランス新法の「30日前予告」
2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、6ヶ月を超える継続的な業務委託を途中解除・不更新とする場合、発注者は原則30日前までに予告する義務があります。解除理由の開示を求める権利もあります。
「来月末で終了です」と口頭で突然通告されるケースは今もありますが、法律上は対抗する根拠があるということは知っておいてください。
証拠は自分で残す
契約書、発注書、メールやチャットの記録は必ず保全しましょう。トラブルになったとき、エージェントは法律上の制約(非弁行為の禁止)もあり、深い交渉には踏み込めません。最後に自分を守るのは自分の証拠です。
困ったときの公的窓口として、「フリーランス・トラブル110番」(厚生労働省委託の無料相談窓口)があります。
孤独とメンタルの管理
意外と見落とされがちですが、フリーランスの大敵は孤独です。一日中誰とも話さずに作業する生活は、確実にメンタルを削ります。勉強会やコミュニティへの参加、休息のスケジュール化は、贅沢ではなく業務インフラの一部だと考えてください。
まとめ:フリーランスは「ゴール」ではなく「選択肢の一つ」
最後にポイントを整理します。
- フリーランスNE市場は、スキルがある人には良い市場。ただし多重下請け構造の弱い立場に個人で立つ覚悟は必要
- 経歴詐称は個人も企業も通用しない時代。最高裁判決で司法の判断も確定した
- スキルアップのフェーズなら会社員が圧倒的に有利。研修・資格支援・聞ける環境・失敗しても守られる仕組みは、フリーランスにはない
- 向き不向きは能力ではなくフェーズの問題。一人で完結できるようになってから検討すれば十分
- なるなら、フリーランス新法などの法的知識は技術スキルと同じくらい重要
フリーランスは「会社員の上位互換」ではありません。守られるものを手放す代わりに、自由と単価を取るトレードオフの働き方です。
まずは会社の制度をフル活用してCCNAなどの資格を取り、一人で現場を回せる実力を付ける。フリーランスを考えるのは、それからでも遅くありません。
最後に。この記事を読んで、「今まさに現場のことで悩んでいるけど、誰にも相談できる人がいない」「エージェントに聞いてみる勇気が出ない」「とにかく話を聞いてほしい」という方がいたら、お問い合わせフォームから気軽に連絡してください。同じ業界で働いてきた者として、話を聞くくらいはできます。一人で抱え込むのが、一番良くないですから。
なお、これからCCNAを取って基礎を固めたいという方は、こちらの記事も参考にしてください。