在宅でオンライン会議に参加していて、椅子に座り直した瞬間や、資料を取りに立ち上がった拍子に、つい「よいしょ」と口から漏れてしまったこと、ありませんか。
しかも運が悪いと、その直後に画面の向こうで誰かが小さく笑っていて、「あっ、ミュートにし忘れてた」と気づく。
あの恥ずかしさ、地味に効きますよね。
この「よいしょ」、ネットで検索すると「年を取った証拠」みたいな、身も蓋もない説明によく行き当たります。
確かにそういう面もあるのですが、リモートワークが当たり前になった今は、もう少し別の角度から見たほうが腑に落ちる気がしています。今回はその話を。
そもそも「よいしょ」は何のために出るのか
まず、掛け声にはちゃんと意味があります。
スポーツの世界には「シャウト効果」という言葉があります。力を入れる瞬間に声を出すと、出せる筋力が数%から、研究によっては12%ほども上がるとされているものです。
これは根性論ではありません。普段は脳が安全のためにかけている”力の出しすぎ防止リミッター”が、発声によって一時的にゆるむからだと考えられているんですね。
重量挙げの選手が「うぉっ!」と叫ぶのも、テニス選手のあの唸り声も、理屈は同じです。
加えて、声を出すと自然と腹圧が高まり、体幹が安定します。立ち上がる・座るという動作は、地味に全身を使う運動です。
だから「よいしょ」は、自分の体に「今から動くよ」と合図を送り、ついでに少しだけ力を底上げしてくれる、わりと合理的な仕組みなんです。
歳を重ねると増えるのは、おそらく筋力やバランスが少しずつ落ちて、動作のたびに体への”合図”が必要になるから。
決して老化そのものを恥じる話ではなく、体が賢く補助を入れているだけ、とも言えます。
では、なぜオンライン会議で増えるのか
ここからが本題です。在宅勤務で「よいしょ」が目立つようになったのには、3つ理由があると思っています。
ひとつ目は、家だと気がゆるむこと。
オフィスの会議室では無意識に”よそ行きモード”になっていた人も、自宅のいつもの椅子に座れば、素の自分が出ます。普段は飲み込んでいた掛け声が、ぽろっと出てしまう。
ふたつ目は、オンライン会議が地味に疲れること。
画面を凝視し、姿勢を保ち、相手の反応をうかがい続ける——いわゆるZoom疲れですね。長丁場の会議で座り直す回数は、対面より明らかに多い。そのたびに体は小さな”気合い”を欲しがるわけです。
ちなみに、長時間の画面凝視でたまる目の疲れについては、エンジニアの目の疲れ対策でも詳しく書いています。
そして三つ目が、いちばん大きい。マイクが、全部拾う。
考えてみれば、オフィスでの「よいしょ」は、ざわめきに紛れて誰の耳にも残りませんでした。
ところがオンラインでは、あなたの口元から数十センチのマイクが、その小さな掛け声をくっきり拾って全員に届けてしまう。
つまり「よいしょ」が増えたというより、今まで埋もれていた音が、可視化されたというのが実態に近いんですよね。

オンライン会議・掛け声図鑑
そう思って耳を澄ますと、職場には「よいしょ」以外にもいろいろな個体が生息しています。せっかくなので、レア度つきで並べてみました。

動作スタート系(よいしょの仲間)
- よいしょ(レア度★)……言わずと知れた定番種。誰の会議にも一人はいます。
- どっこいしょ / よっこいしょ(★★)……よいしょの年季アップ版。音節が増えるほど貫禄が出ます。
- せーの(★★★)……本来は2人以上で息を合わせる掛け声なのに、なぜか一人で言ってしまうタイプ。
- それ(★★★★★)……超レア種。「それ!」はもともと祭りや民謡で人を盛り上げる応援側の言葉なので、自分の動作開始に使う人は、無意識に自分を応援していることになります。味わい深い。
着席・脱力系
- ふぅ〜 / はぁ〜……椅子に沈むときのため息。マイクに乗ると「お疲れですか?」と心配される事故が起きがちです。
考え中・沈黙うめ系(じつは一番拾われる)
- えーっと / あー / そのー……定番のフィラー。沈黙が怖くて、つい埋めてしまう心理も働きます。
- どれどれ……共有画面をのぞき込むときの一言。
おもしろいのは、オンラインで特に目立つのが「よいしょ系(動作の合図)」と「考え中の独り言系」の二大勢力だということ。
前者は体への号令、後者は沈黙を埋めるための無意識の発声。どちらも「一人で画面に向かっている」状況が引き出しているんですよね。
無理に消さなくてもいいけれど
ここまで読んでいただくと分かる通り、「よいしょ」は体にとってむしろ理にかなった反応です。だから個人的には、そんなに目くじらを立てなくてもいいと思っています。
とはいえ、商談や社外との会議で気になる、という気持ちもよく分かります。
そこは根性で我慢するより、仕組みで解決するのが、ネットワークエンジニア(以下、NE)らしいやり方かなと。
- 発言するときだけマイクを開く「プッシュトゥトーク」を使う
- ミュートのオン・オフをショートカットキー(Zoomならスペース長押しで一時解除)として体に覚えさせる
- 口元に近づけすぎない指向性マイクやヘッドセットを選ぶ
このあたりで、ほぼ事故は防げます。
掛け声そのものを抑え込むより、拾われない環境を整える。これが疲れない落としどころだと思います。
マイクまわりだけでなく、在宅の作業環境そのものを見直したい人は、エンジニアのデスク環境づくりもあわせてどうぞ。
一度気になると、止まらない人へ
……と、ここまで読んで「自分、けっこう言ってるかも」と急に不安になった人もいるかもしれません。
じつは、これがいちばんやっかいなんです。
掛け声は、ふだんは無意識に出ています。ところが一度「言わないようにしよう」と意識した途端、その言葉が頭から離れなくなる。
心理学に皮肉過程理論という考え方があって、「考えないようにするほど、かえって意識してしまう」現象が知られています。「白熊のことを考えるな」と言われると、逆に白熊が頭から離れなくなる、あれですね。
つまり、消そうと頑張るほど逆効果になりやすい。
もうひとつ、知っておくと楽になるのがスポットライト効果です。人は「自分の失敗や癖を、周りは思っているほど見ていない」もの。
あなたの「よいしょ」を本気で気にしているのは、たいていあなただけです。会議が終わるころには、相手はきれいさっぱり忘れています。
なので、おすすめの落としどころはこうです。
掛け声そのものは放っておく。前のセクションの「拾われない仕組み」だけ先に用意しておいて、あとは気にしない。
意識を”音を消すこと”から”環境を整えること”に移すと、あのループからスッと抜けやすくなりますよ。
掛け声が増えるのは、座りっぱなしの体が無意識にがんばっている証拠でもあります。在宅ワークで固まりがちな体のケアは、エンジニアの健康管理の記事にまとめています。
おわりに
「よいしょ」は、気の抜けた間抜けな声ではなくて、これから動くぞという、体からの小さな号令です。リモートワークが、それをちょっとだけ目立たせてしまっただけ。
次にうっかり口から出てしまっても、「ああ、今ちゃんと気合いを入れたな」くらいに思って、そっとミュートを確認すれば大丈夫です。