2026年4月21日にSamsungとIKEAから出てきた発表、ニュース自体は地味なんですが、ネットワークエンジニア(以下、NE)目線で読むと「これ家庭ネットワークの形が変わるやつだな」と感じるアップデートでした。
これまでIKEAのスマート電球をSmartThingsで使うには、IKEA独自のDIRIGERAハブを必ず経由する必要があったんですよね。それが、対応する25製品についてはDIRIGERA不要で、SmartThings Hubに直接ネイティブ接続できるようになりました。価格は1個600円〜1000円台。
私はまだ手元で試したわけではないんですが、特に気になっているのが、日本のSamsung TVオーナーには「ハブを買わずに今すぐ使える」ルートが用意されているという点。この記事では、何が変わったのか、日本のユーザーが具体的にどんな選択肢を持てるのかを、NE視点で整理していきます。
何が変わったのか:DIRIGERA経由が「省略可能」になった
これまでIKEAのスマート電球や人感センサーは、Zigbeeというプロトコルで動いていました。Zigbeeを話せるコントローラー(IKEAの場合はDIRIGERAハブ)が必要で、SmartThingsから使いたければDIRIGERAをMatter Bridge化して、その先にSmartThings Hubをぶら下げる、という二段構えだったんですよね。
2026年4月21日のSmartThings公式発表で、この前提が崩れました。IKEAの新しいMatter over Thread対応デバイス(合計25製品)は、DIRIGERAを介さずSmartThings Hubに直接ネイティブ接続できる設計に変わっています。
ここで個人的に注目しているのは、単に「ハブが1台減る」という話だけじゃないところです。仕様を読む限り、
- ローカル制御の経路が短くなり、コマンドの応答が速くなる設計
- インターネットが切れてもハブ・デバイス間でローカル稼働が続けられる
- Apple Home / Google Home / Alexaとも同時接続できる(マルチアドミン機能)
このあたりが効いてきます。しかも旧Zigbee資産(TRÅDFRIシリーズ等)はDIRIGERAをファームウェアアップデート(v2.805.6 / v2.934.0以降)すれば、Matter Bridgeとして引き続き使えるので、「これから始める人」も「すでに資産がある人」も両方拾える設計になっている。過渡期のアーキテクチャとしてかなりよく考えられているなと感じます。
対象製品と要件の整理:照明・プラグは直結、センサー類は要DIRIGERA
公式発表時点でMatter over Threadネイティブ対応している主要製品はこちらです。

| 製品カテゴリ | 製品名 | 型番 | 接続方式 | ハブ要件 |
|---|---|---|---|---|
| スマート電球 | KAJPLATS E26 485lm | 506.189.76 | Matter over Thread / BLE | Thread Border Router |
| スマート電球 | KAJPLATS E26 1160lm(カラー対応) | 406.192.74 | Matter over Thread / BLE | Thread Border Router |
| スマート電球 | KAJPLATS E27 1521lm | 906.113.03 | Matter over Thread / BLE | Thread Border Router |
| スマートプラグ | GRILLPLATS(電力モニタ対応) | 406.200.55 | Matter over Thread / BLE | Thread Border Router |
| リモコン | BILRESA Scroll Wheel | 606.178.96 | Matter over Thread / BLE | Thread Border Router |
| 環境センサー | ALPSTUGA / VALLHORN 等 | (Zigbee系) | Zigbee / Matter | DIRIGERA必須(Bridge経由) |
ポイントは、照明とプラグ系は新世代のMatter over Threadネイティブ対応で、Border Router 1台あれば直結できるところ。一方でCO2や水漏れ、人感などのセンサー類は依然としてZigbeeベースで、DIRIGERAを介してMatterへ橋渡しする旧モデルの作りが残っています。「全部入りでDIRIGERA不要」ではなく「メインの操作系はDIRIGERAから解放された」が正確な表現かなと感じます。
本記事で取り上げた主要製品はこちらから確認できます。
ハブ要件もここで整理しておきます。Matter over Threadデバイスを直結するなら、ネットワーク内にThread Border Router機能を持つハブが1台あれば成立します。具体的にはSmartThings Station、SmartThings Hub v3、対応するSamsung TVなど。
逆に注意したいのがSmartThings Hub v2で、こちらはWi-Fi/ブリッジ経由のMatterは扱えるんですが、Thread Border Router機能そのものを持っていません。v2しか手元にない場合は、Apple TVやEcho、別の追加ハブをBorder Router役として組み合わせる必要があるので、購入前に確認しておきたいポイントです。
Border Routerが手元にない場合の購入候補:
DIRIGERAは要る?要らない?

家にあるBorder Router内蔵機器で判定がつきます。
| 持っている機器 | DIRIGERA |
|---|---|
| 対応するSamsung TV(QN85C / S85D / S90Dなど 2023年以降ハイエンド) | 要らない |
| Apple TV 4K(第3世代)または HomePod(第2世代) | 要らない |
| Google Nest Hub(第2世代)または Nest Hub Max | 要らない |
| Echo Show 8 / 第4世代Echo(Border Router内蔵モデル) | 要らない |
| 上記いずれもなし | 要る(or 別のBorder Router機器を購入) |
ポイントは、最近の主要スマートスピーカー/メディア機器の多くがすでにThread Border Routerを内蔵していることです。Apple、Google、Amazon、Samsungの全プラットフォームが対応済みなので、何かしら持っている家庭が多いんじゃないかなと思います。
日本ユーザーが受けられる恩恵:Samsung TVの「見えないハブ」が効く
「で、日本で使えるの?」という当然の疑問ですが、調べてみると思っていた以上に整っていました。
製品流通については、型番ベースで照合した限り、KAJPLATS電球の主要モデル(506.189.76、406.192.74)、GRILLPLATSスマートプラグ(406.200.55)、BILRESAリモコンキット(606.178.96)はいずれもIKEA Japanのオンラインストアおよび実店舗で取り扱いが確認できます。DIRIGERAハブも日本市場で完全対応、IKEA Home smartアプリのiOS/Android版も日本語ローカライズ済み。製品流通のレイヤーはもう障壁ではないんですよね。
問題はSmartThings側です。日本市場ではSmartThings Hub v3やSmartThings Stationの単体流通が弱いんです。Samsung Japanとして日本独自のチャネルでハブを推しているわけではないので、わざわざハブを買って環境構築するハードルはそれなりに高い。これだけ見るとSmartThings連携は日本では絵に描いた餅、という結論になりかねないんですが、ここで効いてくるのがSamsungの「見えないハブ」戦略です。
Samsungは2022年以降、日本で販売しているハイエンドのSamsung TVに、Thread Border Routerをハードウェアレベルで内蔵しています。たとえば2023年モデルの「QN85C Neo QLED 4K」、2024年モデルの「OLED S85D / S90D」あたりは、バックグラウンドで実質的なSmartThings Hubとして動作する設計になっている。
つまり、対応するSamsung TVを持っている日本ユーザーは、追加投資なしでKAJPLATS電球やGRILLPLATSプラグをSmartThingsに直結できるわけです。Matterの普及を一気に加速させる、トロイの木馬的なインフラ展開と言えるかなと思います。
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手持ち環境別・最短セットアップルート

「うちはSamsung TVじゃないんだけど」という人向けに、SmartThings以外の選択肢を整理します。Matter over Threadはベンダーロックインを排除する設計なので、ここはかなり柔軟です。
- Apple HomeKitルート:Apple TV 4K(第3世代)またはHomePod(第2世代)がThread Border Routerとして機能。iPhoneの「ホーム」アプリでQRコードをスキャンすれば直結
- Google Homeルート:Google Nest Hub(第2世代)やNest Hub MaxがThread Border Routerを内蔵。Google Homeアプリ経由で直結
- Amazon Alexaルート:Echo Show 8や第4世代のEchoがBorder Routerを内蔵。日本でのスマートスピーカーシェアを考えると、導入ハードルは一番低いかもしれません
各エコシステム別の代表的なBorder Router内蔵機器:
ハブを増やしたくない、Wi-Fiで完結させたい、というニーズもあるかなと思います。その場合はサードパーティのMatter対応Wi-Fi製品も候補に入ります。TP-LinkのTapo Matter対応スマートプラグはWi-Fi接続型でThread非対応ですが、ハブ不要・Matterネイティブ・電力モニタ対応の手軽さが魅力。Philips HueはIKEAより価格帯は上ですが、調光のスムーズさやサードパーティ連動の安定性は業界最高水準。LIFXのハブ不要Wi-Fi電球も、独立運用や色鮮やかさを重視するなら候補に入ります。
ハブを増やしたくない場合の選択肢:
ただ、IKEAの1個600〜1000円台という破壊的価格を考えると、Border Router 1台導入してでもKAJPLATSを大量配備する方がコスパは圧倒的です。予算と既存環境のバランス次第かなと思います。
既存Zigbeeユーザーの段階的移行:DIRIGERAアップデートで資産保護
すでにIKEAのTRÅDFRIシリーズ(旧Zigbee電球やリモコン)を持っている人もいると思いますが、慌てて全部買い替える必要はないというのが結論です。
DIRIGERAハブを最新ファームウェア(v2.805.6 / v2.934.0以降)にアップデートすると、フル機能のMatter ControllerかつThread Border Routerに進化します。これでZigbeeのTRÅDFRI製品もMatter Bridge経由でSmartThingsから操作可能になり、新規購入分だけThreadネイティブのKAJPLATSやGRILLPLATSを足していく、というハイブリッド運用が成立します。
このアプローチが効くのは、既存資産を保護しつつネットワーク全体をMatterへ段階的に移行できる点なんですよね。一気に置き換えるとコストも工数も跳ねますが、買い替えタイミングで自然にThreadネイティブへ寄せていけば、家庭ネットワーク全体が無理なく次世代化していく。NE視点でも、こういう段階的移行ができる設計はかなり優秀だなと感じます。
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まとめ:ニュースの構造的意味と、後編で深掘りしたい論点
2026年4月21日のSmartThings × IKEA連携は、「ハブ1台を物理的に減らす」レベルを超えて、家庭ネットワークのアーキテクチャを変えるアップデートだと感じます。日本ユーザーにとっては、Samsung TVが「見えないハブ」として機能している現実が思った以上に大きい。製品流通も日本語ローカライズも整っているので、参入ハードルはかなり下がっています。
ただ、ここまでは「使い始める前」の話なんですよね。実際に10台、20台とMatter/Threadデバイスを増やしていくと、家庭内Wi-Fiの帯域圧迫やIoT機器のVLAN分離、mDNSの境界越えといった「NE的に面白い問題」が顔を出してきます。
なお、本格的に台数を増やしていく場合、Wi-Fiやネットワーク設計側にいくつか考えるべき論点が出てきます。そのあたりはネットワークエンジニア(NE)視点で後編にまとめているので、技術寄りの方はそちらもどうぞ。